汚染物質排出基準に達したことは環境汚染の免責事由にならない
国家又は地方は環境品質を確保するため一連の汚染物質排出基準を制定し、汚染源により排出された汚染物質の数量又は濃度に対し制限的な規定を定めた。なお、事業者の排出汚染物質が国家又は地方所定の排出基準に満したが、環境に対し損害結果をもたらした場合、不法行為責任を負う必要があるのか。
最高裁の公報(2014年11月)で紹介した下記の指導性判例によると、環境汚染については無過失責任を適用するため、事業者が国家又は地方所定の汚染物質排出基準に従って汚染物質を排出したとしても、法律法規所定の責任を免除又は軽減の状況に該当することを挙証できる場合を除き、汚染行為を行いかつ損害をもたらしたうえ、関連の侵害責任を負わなければならない。
【事実関係】
1995年より、被告「福建省(屏南)榕屏化工有限公司」は生産を開始した以降、周辺地域に対し汚染をもたらし、排出した廃水、廃ガス及び廃棄物は環境及び人体に対し厳重な損害を与えた。特に、排出された塩素ガスは、大量の樹林、竹林、果木及び農作物の枯死、魚介類の死亡をもたらした。上記事項については、実地調査報告書、地方政府により提出された『屏城鄕溪坪村における榕屏公司により与えられた汚染情況』及び会計事務所が提供した損失計算基準により裏付けられている。原告張長健等1721人が訴訟を起こし、侵害行為の即時停止、農作物などの損失賠償、及び廃棄物の処理を求めた。
【判決】
1、被告は、直ちに原告に対する侵害行為を停止すること。
2、被告は、判決の効力発生後10日以内に、原告に樹林、竹林、果木及び農作物などの損失に関する損害賠償金684,178.2元を支払うこと。
3、被告は、判決の効力発生後1年以内に、工場内及び裏山にあるクロムを含む廃棄物を整理整頓し、規範に則って処理し、かつ裏山における置き場を廃止すること。
【争点】
被告は排出汚染物質が国家又は地方所定の排出基準に達したことを挙証した場合、環境汚染の責任を負わなくてよいか。
【判決意見】
最高人民法院による「民事訴訟証拠に関する若干規定」第4条第1項第3号によると、環境汚染により引き起こされる損害賠償訴訟は、加害者が、法律に規定されている免責事由及びその行為と損害の結果との間に因果関係が存在しないことについて立証する責任を負う。また、国家環境保護局による「環境汚染損害責任の確定の問題に関する回答」に基づき、国家又は地方所定の汚染物質排出基準は、環境保護部門が関連事業者に対し超過排出費の徴収決定及び環境管理を行う根拠だけであり、汚染物質排出事業者の環境賠償責任を負う必要があるか否かを判断するものではない。よって、被告が環境保護検収合格、機械設備の先端性、汚染物質排出基準合格、汚染物質漏洩事故の発生率ゼロ及び関連専門家の論証など証拠を提出したが、汚染物質排出基準は環境汚染責任を認定する基準ではないので、被告は当該基準に達したことを以って環境汚染責任の抗弁、減・免責、を主張してはならない。また、被告が提出した証拠は廃ガス及び廃棄物の排出と原告の農作物等損失の間に因果関係が存在しないことについて証明できないため、挙証不能と認定し、環境汚染責任を負わなければならない。 |