社名の略称も不正競争防止法の保護対象
日本でも中国でも自社の正式社名とは別に、対外的に略した社名を使うことが多い。また多くの場合、こういった略した社名は、正式な社名ではなく、商標登録もしていないことが多い。こういった社名の略称は保護に値するか。
最高裁の公報(2014年12月)で紹介した下記の指導性判例によると、企業が正式の社名とは別に、社名の略称を長期的、広範囲に対外的に使用し、市場において一定の知名度があり、かつ関連する公衆に公知し、事実上の商号と認められる場合、企業名称として保護すべきである。勝手に第三者が事実上の商号と認められる企業名称の略称を、商業活動においてインターネット検索エンジンの有料スポンサーキーワードとして利用し、関連する公衆に誤認させる場合、不正競争行為に該当する。
【事実関係】
1986年11月1日、原告「天津中国青年旅行社」が設立。遅くとも2007年に地元の新聞等は、同社主催のイベントを報道する際に、同社のことを「天津青旅」と略称した。同社もまた対外的な見積書、契約書、同業他社との提携協議書、領収書等資料及び、主催したイベント、事業所の看板等で「天津青旅」を自社の略称として使用している。
2010年7月6日、被告「天津国青国際旅行社有限公司」が設立。2010年末、GOOGLEやBAIDU等検索サイトで、「天津中国青年旅行社」又は「天津青旅」をキーワードとして検索したら、一番トップに表示されたスポンサーの位置に、「天津中国青年旅行社オンラインショップ 天津国青オンライン営業所、等。」又は、、「天津青旅オンラインショップ 天津国青オンライン営業所、等。」といった文字が表示され、クリックすると、被告の社名、連絡先等情報が表示したサイトにアクセスすることになっている。
本件は1、2審だけでなく、最高裁に再審まで申請した判例である。以下はDLが最高裁の再審判決文及び最高裁の公報(判例の抜粋)に基づき整理したものである。
【判決】
1、 被告は、直ちに「天津中国青年旅行社」、「天津青旅」の使用、及び同文字を自社サイトの検索用キーワードとしての使用を停止すること。
2、 被告は、判決の効力発生後30日以内に、自社サイトにおいて連続15日間、謝罪声明を掲示すること。(当該謝罪声明は裁判所の審査を受けること。期限通りに履行しない場合、裁判所は判決の主たる内容を公示し、その費用を被告が負担するものとする。)
3、 被告は、原告に3万元の損害賠償金を支払うこと。
【争点】
1、 問題のサイトに、被告の社名、連絡先及び被告の商品紹介が掲載しているだけで、被告が同サイトを運営しているといえるか。
2、 原告は「天津青旅」を企業名称又は商標として登録していていないが、原告にはその独占使用権を認めるべきかどうか。
【判決意見】
1、問題のサイトに、被告の社名が表示しているだけでなく、サイトの著作権者も被告だと表示しており、かつ掲載してる電話、ファックス、住所及び営業許可書、税務登記書並びに旅行業免許等免許の情報も、被告のものと一致する。また、サイトで宣伝しているものも被告の旅行商品であり、被告の従業員の名刺に表示している会社のHPのアドレスも問題のサイトと同じであることから、問題のサイトと被告とは密接な関係にあることを裏付けている。上記事実に基づき、被告が問題のサイトの事実上の支配者と認定した原審には、間違いがない。
2、天津中国青年旅行社は1986年から国内・海外旅行業務を経営し、その社名及び社名略称「天津青旅」は、長年の経営、使用、宣伝等で、天津地区において比較的高い知名度を有する。「天津青旅」は企業の略称として、天津中国青年旅行社との間に安定的な関連関係ができており、事業者を識別する商業標識の意義を有する。一定の市場知名度を有し、関連公衆に熟知され、かつ事実上商号としての機能を有する企業名称の略称は、企業名称と見做し、「不正競争防止法」第5条第3項[i]の規定に基づいて保護することができる。
注:本判例は2014年12月第218期公報により
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